はじめに
医療や福祉の現場で働いていると、日々、緊張やプレッシャーの中で過ごすことが多いと思います。
患者さんや利用者さんの命や生活を支える仕事だからこそ、「ストレスをどう対処するか」は避けて通れないテーマです。
今回は、心理学でよく使われる「ストレスコーピング(coping)」という考え方を
よりイメージしやすいようにわかりやすく説明します。
ストレス対処のアプローチの仕方には3つある
ストレスコーピングの説明に入る前に、ストレス対処方法をイメージしてみます。
まず、ストレスに対処するには大きく2つの方法があります。
①自分を変える ②環境(自分以外)を変える
そのうち、今回は①自分を変える 方法によってストレスに対処していくことを考えていきます。
自分を変えるストレス対処に対しては、3つの方向からアプローチができるでしょう。
①思考(考え)からのアプローチ ②精神(心)からのアプローチ ③身体からのアプローチ
これらを念頭に置いて、ストレスコーピングを学んでいきましょう。
ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとは、ストレスにどう対処するかという行動や思考のことです。
同じようなストレス状況でも、人によって「向き合い方」や「感じ方」が異なるのは、このコーピングの仕方が違うからです。
心理学では、主に次の3つのタイプに分けられます。
① 問題焦点型コーピング(problem-focused coping)
概要
ストレスの原因そのもの(=問題)に直接働きかけて解決しようとする方法です。
「なぜこうなったのか」「どうすれば改善できるか」を考え、具体的に行動を起こします。
例
業務量が多くて負担を感じる → 同僚や上司に相談し、分担を見直す
ミスが多い → 業務手順を整理し、チェックリストを作る
覚え方のコツ
これは、「思考からのアプローチ」と覚えるとわかりやすいです。
冷静に現状を分析し、論理的に問題を解決していくスタイルです。
一歩引いて客観的に考えられる人ほど、この方法を上手に使えます。
② 情動焦点型コーピング(emotion-focused coping)
概要
ストレスそのものを解決するのではなく、ストレスによって生じる感情を調整する方法です。
怒り・不安・悲しみなど、感情の揺れを整えることで、心を落ち着かせようとします。
例
つらい気持ちを信頼できる人に話す
日記を書いて気持ちを整理する
深呼吸や瞑想で心を落ち着ける
覚え方のコツ
これは「精神(心)からのアプローチ」と考えるとわかりやすいでしょう。
気持ちの動きを丁寧に受け止め、感情の波を穏やかにしていく方法です。
マインドフルネスやセルフコンパッション(自分への思いやり)なども、ここに含まれます。
③ ストレス解消型コーピング(stress-relief coping)
概要
ストレスを発散するために、体を動かしたりリラックスしたりする方法です。
心理学的には「情動焦点型コーピング」の一種に含まれることもありますが、
身体を通してストレスにアプローチする独立した形とした捉え方もあります。
例
運動やストレッチをする
温泉やマッサージでリフレッシュ
趣味や音楽で気分転換
覚え方のコツ
これはまさに「身体からのアプローチ」です。
心の疲れは、身体の緊張として現れることも多いため、身体をゆるめることが心の回復にもつながります。
3つのコーピングは、補い合う関係
この3つは、互いに補い合う関係にあります。
ストレッサーの種類によって、使われるコーピングも異なるでしょうし、複数のコーピングを組み合わせて対処していることも少なくありません。
思考、心、身体が密接に関わり合って、ストレスに対処していることが分かります。
実際、自分がストレスを感じた、といった場合は、下のような流れになっているはずです。
ストレスを感じる
↓
どのアプローチから始めてもOK!
↓
① 身体を整える(リラックス・休息・運動)
② 心を整える(気持ちを整理・話す・受け入れる)
③ 思考を整える(原因を考え・行動を決める)
↓
必要に応じて他のアプローチへつなげる
まとめ
ストレスコーピングは、「ストレスをなくす」ためのものではなく、
ストレスと上手につきあうための工夫です。
問題焦点型(思考からのアプローチ)も、
情動焦点型(精神からのアプローチ)も、
ストレス解消型(身体からのアプローチ)も、
どれも私たちにとって欠かせないストレス対処の柱です。
自分に合った方法を見つけ、
無理なく生活していけるようになることを願っています。


