私たちはストレスや不安を抱えたとき、無意識のうちに心を守る仕組み=防衛機制を使っています。その一つが「投影(projection)」です。
投影とは?
投影とは、自分の中にある感情や欲求、受け入れがたい気持ちを、相手が持っているかのように感じてしまう心の働きです。
たとえば、自分の怒りや不安を「相手が怒っている」「相手は私を嫌っている」と思い込むようなケースです。思い込んでいて実際はそんなことないのですが、当の本人からすると、それが真実であり、自分でも気づきにくい心の動きです。
日常生活で起こりやすい事例
自分が相手に対してライバル意識を持っているのに、 「あの人はいつも私に敵対心を持っている」と思い込む、とか、恋愛や夫婦関係でいうと、自分がパートナーを疑っているのに、 「きっと私のことを信じていないに違いない」と感じてしまったり、などです。繊細な人、周囲の反応に敏感な人ほど、必要以上に考えすぎてしまうので、投影の影響を受けやすいでしょう。
看護師の現場で見られる事例
患者対応にて
看護師自身が「自分のケアに自信が持てない」と不安に感じているとき、
「患者さんが私のことを信用していないように見える」
「患者さんは私を頼りないと思っている」
と感じてしまうことがあります。実際には患者さんはそう思っていないのに、自分の不安を相手に映し出してしまうのです。また、実際には看護師自身の技術不足、知識不足が引き起こしていることが多いです。あるいは、単純にその看護師が心配性、という時にも起こりがちです。
同僚との関係にて
新人看護師が「失敗したら怒られるかもしれない」と緊張しているときに、
「先輩は私に対して厳しい目を向けている」
「同僚は私をよく思っていない」
と受け取ってしまうことがあります。これも、知識不足、技術不足によって、自分の中の不安や自信のなさが投影されているのです。
投影のメリットとデメリット(医療職の視点)
メリット
気持ちを外に出すことで自分を守る
自分の中の不安や葛藤を「相手が持っている」と捉えることで、心の負担を軽くできます。これは相手が一時的にしか会わない人であるなど、短期間の人間関係であればかなり有効に働きます。
気づきのきっかけになる
「相手がそう思っているのでは」と感じたことを振り返ると、自分の中の課題に気づける場合もあります。すでに投影についての知識や理解がある人は、このように自己分析することができるでしょう。
デメリット
誤解や人間関係のトラブルにつながる
相手の気持ちを歪めて受け取ってしまうため、不要な摩擦や不信感を生むことがあります。
自己理解の妨げになる
自分の感情を相手に投影し続けると、本当の自分の気持ちに向き合えなくなり、成長の機会を逃してしまうことがあります。
投影を知っておけば(まとめ)
投影は誰にでも起こる自然な心理的防衛ですが、医療職の現場では患者さんや同僚との信頼関係に大きく関わるものです。
投影について理解を深めた私たちは、「相手がこう思っているに違いない」と感じたときは、「それは本当に相手の気持ちか、それとも自分の不安か?」と一度立ち止まることが、自身の気持ちに直面できる機会、自身の気持ちを理解する機会になります。
往々にして、自分のプライドが邪魔をして、無意識に自分の気持ちだと認識したくないために、相手の気持ちにしてしまうのです。一旦プライドを取り払い、自身をみなおすことで、健全なコミュニケーションや自己成長につながるでしょう。