防衛機制にはさまざまな種類がありますが、その中で「知性化(intellectualization)」は、感情に直接触れる代わりに理屈や知識で処理しようとする心の働きです。医療現場のように強い感情に直面する場面では、無意識に使われやすい防衛機制のひとつです。
知性化とは?
知性化とは、不安や葛藤をそのまま感じる代わりに、論理的・理性的に考えることで感情から距離をとる防衛機制です。頭で理解することに集中することで、心の負担を軽くしようとする無意識の働きといえます。
身近な事例
失恋したときに「人間は進化の過程でパートナー選びを繰り返す生き物だ」と考えて、悲しみを理屈で説明する。
解雇を告げられても、「経済的な合理性から仕方がない」と分析し、悔しさや怒りを感じるのを避ける。
看護師の現場で見られる知性化の事例
1. 患者対応のケース
患者さんの死に直面したときに「死は誰にでも訪れる自然な現象」と理屈で説明し、自分の悲しみを感じないようにする。 苦しむ患者さんを見ても「病態生理の結果だから仕方がない」と頭で整理することで、感情を抑える。
2. 自分自身のケース
自分の不安や疲れを「看護師の役割だから当然」「統計的に考えれば問題ない」と理屈で納得し、感情に気づかないようにする。 失敗やミスのショックを「人間工学的にミスは避けられない」と解釈し、悲しみや不安から目を逸らす。
3. 看護師同士の人間関係のケース
同僚との摩擦で傷ついても、「性格特性の違いだから仕方がない」と説明し、怒りや寂しさを正面から感じない。 チーム内の葛藤を「組織論的には自然な現象」と処理してしまう。
知性化のメリットとデメリット(医療職の視点)
メリット
冷静に対応できる
客観的に状況を判断しやすいといえます。また、感情に押しつぶされず、理性的に知識やエビデンスに基づいて考えることができ、専門性を発揮しやすく、業務を正確に適切に行うことができるという利点もあります。
デメリット
感情に気づけなくなる
悲しみや怒りを理屈で覆い隠すため、心のケアが後回しになりやすい。 結局は、悲しみや怒りの感情を無くすとはできないのです。また、過度に理性的になると、患者さんに「冷たい」と受け取られかねません。
ストレスが蓄積する
感情を感じないようにしても、完全に消えるわけではなく、心身に影響が現れることもあります。
冷静に判断した方が、現場で仕事をする上では良いでしょう。ただ、自身が感じた感情を無視することはやめましょう。後からでいいので、悲しみや怒りに向き合う時間をとり、その上で、現場において冷静に対応した自分を褒めてあげてください。
まとめ
知性化は、感情に押しつぶされそうなときに自分を守る強力な防衛機制です。しかし、理屈だけで感情を処理し続けると、患者さんや同僚との関わりに影響したり、自分自身の疲労やストレスにつながることもあります。
理性で対応すること自体は、その場の判断力も高まりますし、とても良いことでしょう。ただ、その後の自分の心のケアを必ずしてあげてください。自分にちょっとしたご褒美を与えてみてもいいでしょう。また、実は苦しかった、悲しかったという思いを、信頼できる人に打ち明けてみるのも一つの方法です。