看護職や介護職など、医療福祉に関わる職業人は、うつ病など精神的に落ち込む状況に陥ることが多い傾向にあります。何を隠そう、私も適応障害を経験しました。
これらの職業は人の生活や命を預かる責任がのしかかる上に、対人関係が中心の仕事であるため、基本的にストレスがかかりやすいと考えられます。その上昨今では、労働力の減少から、職員ひとりに対する仕事量も増加しがちです。いわゆる、バーンアウトしやすい状況が揃っているのが現状です。
前回、日常生活から、バーンアウトに近づいてしまっていないかをある程度判断できることを書きましたセルフケアのすゝめ バーンアウトを避けるために。普段は外出も楽しめるのに、「休日に外に出たくないなあ」と感じた時は、仕事で自分を犠牲にしている可能性がある、この段階で自分自身をケアすることが大事と書きました。
今回は、この「仕事で自分を犠牲にする」とはいったいどう言うことなのか、心理学の視点から考えてみます。
バーンアウトとは
まず、バーンアウトととは厳密には何かをまとめます。
これはアメリカの心理学者フロイデンバーガーによって、1974年に初めて提唱された言葉です。続けて、これもアメリカの心理学者であるマスラックが、バーンアウト尺度を開発しました。
主な症状として、情緒的消耗感(心身ともに疲れ果てたという感覚)、脱人格化(相手の人間性を軽視し、大切に扱わなくなる)、個人的達成感の低下(仕事に対するやりがいの低下)があげられます。特に、脱人格化は、患者様や利用者様相手の仕事なら、相手に迷惑がかかる一方で、その一歩手前くらいのことを体験された方は結構いらっしゃるのではと思います。
明らかにひどい対応とまではいかないでしょうが、普段は優しい感情が乗った上で対応できることが、あまりに忙しいと業務的になってしまうことは私自身もあります。この状態が続いてしまうと相手を人と思わず対応してしまう、ひどい場合は虐待になりかねないということですね。
ではバーンアウトの予防はどうすればいいかと言うと、ズバリ早期発見が第一です。しかし、それができないことが往々にしてあります。それはなぜなのか、その秘密は人間に備わっている本能にあるのではと私は推測します。
防衛規制とは
その本能とは、防衛規制です。防衛規制は、人がストレスを弱めたり避けたりすることで、心の安定を保つための、無意識で行われる心理的作用です。
なので、基本的には自分の心を守るための大切な機能なのですが、時に(特に長期的な視点で見ると)反対に作用してしまうこともあります。全てとは言いませんが、悪くいえばその場しのぎの、よくいえばその一瞬を乗り越えるための、心の反応であることが多いです。今回はその中の一つ、「反動形成」に着目しました。
反動形成
これは、「自分にとって受け入れ難い欲求の意識化を防ぐため、無意識であえてその欲求とは反対の態度を過度にとってしまう」というものです。
わかりやすい例では、小学生の男の子が気になる女の子にわざといたずらをする、とかです。
仕事内で起こりやすい反動形成
反動形成とは、実は仕事内でも起こりやすいものです。
対人間に対する反動形成
例えば、職場での苦手な上司や利用者様がいたとします。しかし関わらないことには仕事になりません。そこであなたは無意識的に次のように考えます「この人のことを私は好きだ」と。そこで過度にお世辞を言ったり親切にすると言った行動がとられます。
確かに、この瞬間は、相手を嫌な気持ちにもさせずに、うまく乗り越えたと言えるでしょう。一度きりの相手なら効果は十分です。しかし、これが毎日毎日続き、その上苦手だと言う事実を自分で認められないままだと、慢性的なストレスに繋がるのは想像に容易いでしょう。
対業務に対する反動形成
もう一つの例は、業務が増えた時です。これは中堅からベテランの職員に起こり易いと考えます。新人指導という仕事が増えた、委員会などの業務が増えた、また、労働力が減ったため、減った人員の分の受け持ち利用者や患者が増えるようになった。などなど。
このような立場になる方々は優秀な人が多いです。普段の仕事がしっかりできているために、上司から認められ、新たな仕事を任せられるからです。しかし、優秀で仕事を責任を持ってこなしてしまうが故に、仕事が増えても同じように全てを完璧にしようとしてしまいます。
その際、本来は自身のキャパオーバーであるにも関わらず、無意識的に「忙しくない、私は全部ちゃんと仕事できる」と考えてしまい、「断る」行為ができず、むしろ周りの職員の負担を減らそうと自ら仕事を増やしてしまうこともあります。
これも、例えば「一週間」など、短期間の期限が定められているうちはとてもうまく働くのですが、長期にわたると、キャパオーバーの仕事量をこなしているわけですから、自身の身が持たないのは明白です。
これらのように、職場において起こりやすい反動形成が、慢性的なストレスにつながり、バーンアウトの原因になり得るのです。
事実を認め、受け入れる練習を
では、どうしたら良いのでしょうか。答えとしては、自分が「この人はちょっと苦手」とか「業務はこれ以上増やせない」など、自身の正直な気持ちを認め、受け入れることです。
ただ、これはすぐに治せるものではありません。自分の性格に直結していますから。おそらく、「私は誰に対しても優しくしなければならない」とか「仕事はなんでもできなければならない」といった考えを持った真面目な人が多いと思います。そのため自身の気持ちを認めるのは簡単ではありません。
まず、多少優しくなくても、仕事を完璧にできなくても、あなたはそんなあなたでいいと自分を認めてあげること、そして、自分の正直な気持ちは何かを見つめる意識を持つことから始まると思っています。
自分自身を時には客観的に見ることで、自分の考え方の癖を知ることができるのです。
まとめ
今回は心理学的な視点から、人間の防衛規制、特に「反動形成」が、医療福祉職の職場においてバーンアウトに繋がる可能性があることをまとめました。「仕事できてるのになぜかもやもやする、いらいらする」と言った時は、少し客観的に自分の気持ちを見てみるよう意識してみてください。
また、その意識をもつためにも、心理学などとといった学問を少しでも知っておくことは有益なのかもしれません。
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